私は時々散歩をする。
散歩をしながら今と昔の街の変化を発見するのが好きだ。
私が住んでいる街の駅周辺にはいくつもラブホテルがある。
かつては最先端の憩いの場だったそれらラブホテルは、
今ではただただ寂れた雰囲気を漂わせている古ぼけた建築物になってしまっている。
こんな「解体待ったなし」に見えるホテルに誰がエッチをしに行くのだろう?と不思議に思うほどである。
平日の昼間など人通りが少ない時間帯には、
私は勇気を出して(好奇心が抑えきれず)ラブホのフロントを覗くことがある。
そして意外にもそんなおんぼろホテルがいずれも満室に近い状態であることにしばしば驚くのである。
一体誰が・・・?
まあ、どんな人が入室しているかはわかるはずもないが、
意外に今でもそこそこ需要はあるようだ。
(不倫中のビジネスマンがこっそり利用しているのか?あるいは女子会の会場となっているのか?)
けれどこれは私の勝手な想像であるが、今どきの若い恋人たちはあまりそういうホテルを愛の行為に利用はしていないような気がする。
私がまだ20代だった頃は、次々と新しいラブホテルが建設され、
「あそこはプールがあるらしい」
「あっちはアメニティもルームサービスも超豪華だよ」
「今度できたあのホテルにはカラオケもゲームもマッサージチェアも最新機種があるんだって」
と、新たな情報を入手しては週末ごとに利用させてもらっていた。
しかし私たちより下の世代の人たちは、
だんだん男女のセックスに興味がなくなりつつあるというニュースを目にすることが多くなり、
実際に晩婚化、非婚化が進み、それにつれてラブホテル業界も衰退の一途を辿って行ったような気がする。
その証拠にここ何年も、もう新しいラブホテルを私は見かけていない。
余談だが、10年ほど前、驚愕の光景を目にしたことがある。
初老の男性が運転する車の後部座席に、どう見ても70代以上の老婆が座っており、
その車はラブホテルのあのビニールカーテンの中へするすると入って行ったのである。
あの男女はなぜ前後にわかれて座っていたのか?
夫婦や恋人同士でなかったのは確かだろう。
ではどういう関係だったのか?
ある種の売春?
いや、考えるのはよそう。
何かしらの事情があったのだろう。
事情と言えば、ラブホテルのフロント係や部屋の掃除を仕事にしている人たちは、
どんな素性の、どういう事情のある人たちなのだろう?
給料はいいのだろうか?
家族はいるのだろうか?
興味深い。
(失礼な言い方に聞こえたらすみません)
海外には、こうしたいわゆるラブホテルはないと聞いたことがある。
恋人たちは親のいない時を見計らって自分の部屋で事をいたすらしい。
ロンドンでは場末の小さなビジネスホテルっぽいところのいくつかの部屋を【休憩】用に提供していた(実際に私は利用したことがある)。
パリでは“オテルダムール Hotel d'Amour はどこにあるんだろうね?”などと言って、日本人留学生同士で笑い話にしていたことがある。
若者が恋愛にもう興味を持たないとか、生涯独身率がどんどん加速するとか、
いつか本当に人々は“子供を本気でつくる”以外に愛を交わさなくなる日が来るかもしれない。
「ラブホテルって何?」という時代もそう遠くない未来にあるかもしれないな、と思いながら今日も散歩をして来た。