今住んでいるマンションに引っ越して来てもうすぐ13年になる。
それまでに私は何度も引越しを経験しているが、
高くても4階までで、今のマンションは初めての高層階、15階の住人になった。
そして初めて高所恐怖症という病気の本質というか実態を知った。
それまでいろんな人が「高い所がダメで~」などと言っているのを聞いても、
「高いところが怖いってどういうことなんだろう?吊り橋とか、山の上の方の道路とか、ジェットコースターとか、確かに高い所は怖いけど、“ダメ”っていう感覚はわからないな」と本当に他人事に思っていた。
が、ある日突然、私は高所恐怖症の意味を実感した。
それは夢をみたからである。
猫が15階のベランダから飛び降りて落ちて行く夢をみたのだ。
めちゃくちゃ怖かった。
たぶん夢の中で大声で叫んでいたと思う。
飛び起きて体中が震えていたとも思う。
夢の中なのに下半身がひゅーっとして、何とも言えない恐怖感と不快感があった。
それ以降、私はベランダに出るのが本当に心底怖くなってしまった。
ベランダのフェンスに近付くのも足がすくむ。
下半身がひゅーっとする。
これが高所恐怖症というものかと思った。
猫がベランダから落ちることも、
自分がベランダから落ちることも、
絶対にないとわかっていても、とにかく怖いのだ。
「安全」だとわかっていても「とにかく怖い」のだ。
理屈ではなく本能的なものだろうか。
うちの猫はベランダに出て日向ぼっこをするのが好きだが、
私は絶対に猫から目を離さないようにしている。
夫などは私がぎゃーぎゃー怖がるのを知っていて、
猫をベランダに出して放置することがよくある。
面白がっているのである。
悪趣味な奴だ。
はじめのうちは「あかーん!」と言って、すぐに猫を見守りに私はベランダに出ていたが、夫が図に乗って何度も同じことを繰り返したので、
今では無視することにしている。
こっちの心臓がもたないからである。
(猫がベランダから落ちることは絶対にないとわかってはいるが)
夫も私が無反応であることが面白くないのか、すぐに猫を家の中に連れ戻すようになった。
やれやれである。
あと、私は風の強い日にベランダに洗濯物を干すのも怖い。
大小何種類かの洗濯バサミで何カ所もしっかり止めるようにしているが、
リビングから洗濯物が風に揺れているのを見ると、
遠くへ飛ばされて行ってしまうのではないかと、いてもたってもいられないくらい胸がザワザワする。
その様子が視界に入る度に何度もベランダに出てちゃんと洗濯物が固定されているかを確かめずにはいられず、最近ではちょっとでも風がある日は何も干さないことにしている。
高層階に住むのはほんの少しだけ優越感があったが、
それを上回る後悔もずっと味わっている。