あなたに飼われる猫になりたい

大きな声では言えない日常の本音を書きたいと思います。

町田アワードに寄せて。

先日、BSフジの『フィギュアスケートTV』で、“町田樹セレクション 全日本選手権大会スペシャルアワード2020”を発表していた。

これは『ワールド・フィギュアスケート№91』誌上ですでに発表されているものの、本人解説ということになる。

町田氏は「競技会を見ていると、この選手のここ美しいな、素晴らしいなと感じることがあるが、なぜ美しいのか、素晴らしいのかを、広く一般の方にも伝わるような言葉で説明したい。それが私の仕事」というようなことを語っていた。

 

かねてより町田氏の言葉のチョイスは「独特過ぎる。難解な言葉を選んで自分を賢く見せようとしている。だからかえって伝わりにくい」などと言われることが多いが、今回もまさにそうであったという声が多いように思う。

 

私は、そのこと自体はあまり気にならない。町田氏は研究者であり、学者、教育者であるので、高尚な場所に自分はいるんだという意識はあって当然であろう。しかも彼はまだ31歳という若さだ。自分を実際より大きく見せたい、虚勢を張りたい、そういう年代だと(自分の若かったころを振り返っても)思う。

 

「難解な言葉を使うから伝わらない、そこが問題なのだ」と言われれば、確かにそうだと思うが、きっと町田氏は「そういう人には伝わらなくてけっこう」とさえ思っているのではないだろうか?

スケーターの素晴らしさを「広く」「一般に」「説明したい」と口では言っているが、実際には「我々が携わっているフィギュアスケートは、こんなにも高尚で、複雑で、難解で、浮世離れしているのだ。そこいらの一般人などにそう簡単に理解など出来るはずがない」と思っているかもしれないと私は思っている。

(そもそもBSの番組やフィギュア雑誌を見るなんて、そこそこのスケオタしかいないと思う。一般人にはもともと届かないところで町田氏は語っている自覚はあるのだろうか?)

 

しかし、昨年もそうだったが、今年のこのアワードに関しても違和を感じたのは、町田氏がセレクトしたスケーターの半分くらいは(失礼な言い方であることをあらかじめお詫びしておくが)まだ無名の若手であること。

シーズン通していろんな競技会を見ているフィギュアファンでなければ知らないような(技術も表現もまだまだ未熟な)選手に対して「ものすごい美しいトリプルアクセルを跳んだ」「スケーティングの滑らかさが際立っていた」などと語っていた。

これらの解説と映像を見せられて一般人は「なるほど~」と思うのだろうか?

町田氏の目指す「難解で高尚な文化・フィギュアスケート」をしている選手たちがこんなにも素朴で(未熟で)いいのか?

 

スケーティング・マスター賞の三宅星南選手は男子フリーの中で唯一ステップがレベル4だったそうだが、町田氏は「これは凄いんですよ。スケーティングの技術もステップワークの技術も高い」と大絶賛していた。

いやいや町田氏、そこは「テクニカルはちゃんと演技を見て判定をしたのかな?」と疑念を抱くべきところなのではないのか?(三宅選手が上手くなっていることは私も多少は感じたが)

 

などなど突っ込み始めたらキリがないくらいの解説だったが、羽生ファンに一番不興を買っていたのは、羽生結弦がショートもフリーも新プログラムで、初披露で神演技をしたというのに、町田氏が「ピーキングに鳥肌が立った。五輪シーズンに得意なジャンルを持って来て意気込みを感じた」としか言わなかったことのようだ。

「もっとプログラムの内容に触れるべき。他の選手の演技とはレベルが違うのに“その他大勢のひとり”として済ませた。まっちーは嫉妬の塊り!拗らせ過ぎ!」と羽生ファンは大層おかんむりであった。

 

謎だったのは、宇野選手や鍵山選手、髙橋選手への言及が全くなかったことである。鍵山選手については昨年はさすがにブレークスルー賞を与えていたが、宇野、髙橋に関しては2年連続無視である。(裏事情が相当ややこしいのか?と逆に興味が湧く)

 

ひとつ面白かったのは、三浦・木原ペアの演技解説で、三浦選手が木原選手の股の下を通り、木原選手に抱きかかえられるムーブメントについて「お姫様抱っこって言うんですか?」などととぼけていたところだ。「僕はこんな言葉使ったこともないし、女性に対してこういう行為をしたこともないから知らないんだけど、俗世間ではお姫様だっことかって言うんですかね?」的な発言は微笑ましく感じて笑えてきた。

 

ただ、競技会でもアイスショーでもそうだが、町田氏の解説はあたたかい愛があるとは思う。ずっと光の当たらなかった選手、無名でまだ誰からも注目されていない選手、そういうスケーターにも賞賛の言葉を贈るなんてフィギュアスケートへの深い愛があればこそだろう。

 

そして近い将来、羽生結弦が引退したら、こうして町田氏の解説に突っ込む人間すらいなくなるかもしれない。

あの町田樹セレクションのアワードを見て「誰が残って行くのか。そして誰が見続けるのか」と本当に淋しい気持ちになった。