50代になってから、私は誤嚥することが多くなった。
誤嚥(ごえん)とは、食道に入るべき食べ物が、気道に入ってしまうこと。
物を飲み込む嚥下機能が衰えて起こる事故である。
私の場合(他の人もたいていそうだと思うが)、
甘い食べ物で、汁気のあるものを食べている時にそうなることが多い。
たとえば、パイナップルとか、ぜんざいとか。
今日もぜんざいを食べていた時に大惨事になりそうになった。
しかも餅入り。
餅を食べる前に、ぜんざい(小豆と汁)をひとくち口に入れた途端、
私は誤嚥をしてしまった。
気道がふさがり、全く息ができなくなった。
吸うことも、吐くことも、できなかった。
死ぬかと思った。
これまで何度も経験してきた誤嚥の中で、
今回は本当に死ぬかと思うほど長く苦しい窒息の時間が流れた。
ヤバいと思った。
まだ餅を食べていないのに、
このまま死んだら、私の死体を発見するだろう夫はたぶん「餅をノドに詰まらせたんだ」と思うだろう。
違う!
私はまだ餅は食べていない!
このままでは死ねないと私は必死に冷静になろうとつとめ、
ゆっくりゆっくり息を吸った。
そして息を吐いた。
しばらくして、やっと正常に息ができるようになった。
私は命拾いをした。
よかった。
「餅をノドに詰まらせ50代女性死亡」にならなくて。
お正月になると、この「餅をノドに詰まらせ死亡」のニュースがいくつも流れる。
けれど、死因は餅だけではない。
(なぜ私は「まだ餅も食べていないのにこのまま死ねない」などと焦ってしまったのだろう。餅をノドに詰まらせて死ぬことが恥ずかしいことだとでも思ってしまったのか)
R.I.P
合掌